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原子力関係でいくつかのトラブルが続いて色々と議論があった。火災のあと放置して爆発したことを除いて、今までのトラブルは、本質的な原子力事故ではなかった。破損とか故障とか、世間でよく起こることが、たまたま原子力の分野で起こっただけのことである。
不謹慎ととらえられるかも知れないが、私は「原子力だからといって完全ではありません。神様に作っていただくわけではないから、こういうことはあり得ます」と言っている。原子核物理の実験の大先生でも、「原子炉でもそういうことが起こるのか」と本当に驚いたような発言をされたことがあるので、一般の人に理解され難いのは無理もないことである。「では先生のお作りになる測定器は全く故障を起こしませんか」と反問したところ、「そんなことはない、時々は壊れる」と答えられた。
問題は壊れたあとのことなのである。可能な限りの故障、破損のケースを想定して、バックアップするシステムを用意するが、それでも予想しない、未経験の現象が起こる。ニュートン力学の世界でもまだ未知の現象があるのに、ミクロの世界、原子核・原子力の世界はまだ入口に入ったばかりである。
これは経験を積んで、1つずつ解決していくしかない。安全になってから導入すべき、という意見がある。泳げるようになってから泳げ、というと落語か漫才のネタになるが、原子力の場合どういうわけか誰も笑わない。既製品の新品を輸入して、スイッチを入れて、満足に故障も何もなく動けばよいが、かりに初めはよくても長い年月そういう状態が続くわけはない。
自分で努力して力をつけなければ、いつまでたっても安全は獲得できない。今回の東海村の臨界事故は、この力の無さがもたらした典型的な現象である。マスコミの報道で、世間では「規則違反」が原因と思いこんでいるようだが、そうではない。現場で実際に守れる規則で、かつ原理的に正しいものでなければ話にならない。現場で物を見て、ウランの濃縮度が何パーセントかがわかるわけはない。
チャンと表示して品質管理すればよい、という考えがチラついているが、少なくとも私なら、そんな表示を信用することはない。正しい具体的な計測、警報のシステムを設けた上で、定められた順序で作業する。警報が鳴ったときは、ここからこれを注ぎ込むとか、逃げる、といった、単純な動作でないと誰も全く経験のない事象に対応できるわけはない。
米国では原子力平和利用を始めるにあたって、政府が補助をして全国の大学に約80基の教育研究用原子炉を設置した。カリフォルニア大学バークレー校では、電子工学科棟の地下の一室に特別な防護設備など何もなく、小さな原子炉が設置されていた。
学生の原子炉制御の実験実習用と説明があった。政府の補助は原子炉燃料関係の費用はすべて負担するというものであったが、これが十数年前に廃止されたため大学炉は半数を割るところまで減少した。それでもなお30数基が稼動しているが、MITのある教授は研究会でこれは危機的状態であると強調していた。
実は東海村の事故のあった設備で、これを事前に予知し、警報を出して防ぐのは容易ではない。原理的には中性子あるいはガンマ線モニターで計測してカウントが急増したら警報を出せばよいわけだが、核分裂連鎖反応のきっかけになる中性子が少なすぎるとカウンターが激しく鳴り出したときはすでに手遅れなのである。
これを避けるにはある程度の強さの中性子源で少しずつ中性子を入射しながらモニターすればよいが、中性子源の強度と、モニターの配置で全然検知する性能が違う。中性子源がカウンターからみて対象の容器の正反対側にあれば、正確に、臨界に近接していることをとらえやすいが、途中の容器の遮へい効果が大きいため、かなり強い中性子源が必要となり、作業員の被曝の問題が起こる。
容器の側面をかすめてカウンターに入るように配置すればそれ程強い中性子源はいらないが、この場合は、臨界近接の直前まで来てカウントが急増し始めるので中性子源なしの状態よりはましだが、十分ではない。
こういう現象をすべて飲みこんだ者でないと、あの現象を防ぐことは難しい。制御装置をもっている原子炉の場合は臨界にすることは簡単でいろいろなことが試せるが、あの事故のような設備では実際に臨界にして警報設備をテストすることもできないのである。少なくとも原子炉をマスターした達人にして初めて取り組めることなのである。
既製の原子炉、発電炉だけでは材料、燃料の制約から温度が上げられないため熱効率は約30パーセントが限度である。石油石炭の火力発電の40数パーセント、ほぼ資源のもつ力の半分を有効に使うのにくらべてかなり無駄使いの形になっている。
これを改善するためには新しい研究開発が必要であり、その段階ではまた別の安全問題も出てくると思われる。机上の勉強だけでは対策も十分とれないのはもちろんのこと、緊急時の対応も十分にできないのは前述の数例から見ても理解できる。
近畿大学の原子炉は、初代総長世耕弘一先生の先見の明により設置されたが、わが国の実働5基の大学炉のうちの1つで非常に貴重な存在となった。低出力ながら特長があり、原子炉物理、放射線生物学、放射線計測分野の研究のほかとくに教育訓練にも適している。
本学の原子炉工学科や薬学部の学生のほか、名大、阪大、神戸商船大、九大の原子力関係学生の実験実習を行っており、また中学高校教員をはじめ、小学校や大学教員、高校生、視覚障害者、一般市民などを対象とした研修会や体験会を年間10回以上開催している。
これらを通じて先に述べた、原子炉関係のレベル向上に大きな寄与をしておりわが国の原子力関係者の中では高い評価を受けるようになってきた。本年11月2日、3日に行った第2回原子力展では、周辺住民の方々を含め1,500人近い参加があり、臨界の実験や運転体験により近畿大学炉の意義と安全性を理解していただいた。
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